食欲不振
食欲不振には程度があります。軽いものから並べると
- 量が入らない。
- 無理して食べるが、すぐおなかがいっぱいになる。
- 食事をみるのもいや。箸をとる気になれない。
となり、2、3はすぐ治療が必要です。
食欲不振の問題点
- 食事がとれないと生きてゆくためのエネルギーの素が入ってこないことになり、懐が寂しい金欠状態と同様で対策が急がれます。
- 食欲不振は原因があって起こります。症状を改善するだけの治療では、やめたら元に戻ってしまいます。消化薬を飲んでいるだけではだめだということです。
- 食事がとれないことが活動性を低下させている原因となっている。 食欲はヒトが生きてゆくための根本となる意欲の一つです。朝起きて一日の活動を始めるとき、おなかがすいて食事をとることが自然であり、必要なのです。朝エネルギーの素を補給することで活発に働けるようになるのです。働く前に食事することが肥満の予防につながることも覚えておいていただきたい点です。
- 食欲不振が招く精神の不調。周りの人がもりもり食べてばりばり働いているのに、食べられないことで、自信喪失し、気分が落ち込む、悲しくなるなど仕事にも支障を来すこともあります。全身的な症状も問題になります。気力が無くなり、消極的になり、外出することを避けるようになるなど生活の質が低下します。このため、精神的な面でのケアも必要となることが多いのです。
食欲不振への対処方法
食欲を改善する処方を服用する:西洋医学的対症療法
抗ドパミン薬:メトクロプラミド(プリンペラン錠)、ドンペリドン
オピアト作動薬:マレイン酸トリメブチン(セレキノン錠)
選択的セロトニン5-HT4作動薬:クエン酸モサプリド(ガスモチン)
原因をたしかめる。
多くは生活習慣の問題によっておこります。睡眠時間の短縮、就寝時刻の遅れ、夕食をとる時刻が遅くなっていること、食事内容が高タンパク、高脂肪、高カロリーとなっていること、運動不足になっていることなどがあげられます。これらについては後ほど治療の項で詳しくご説明いたします。これらのほか、精神的負担により食欲が低下することがみられます。
原因の改善を図る:根本治療
生活習慣の改善
- 睡眠時間と時間帯:6時間は欲しいところで午前0時までには就寝したいものです。
- 食事:栄養の偏りを避けるためにも少しずつでも三食とりましょう。最近の食事の傾向からみますと、高脂肪、高炭水化物(糖分)であり、脂っこいもの、チョコレートなど甘いお菓子、お酒は控えめにしましょう。各種ビタミン、ミネラル、食物繊維を積極的に摂りましょう。食事で不十分な場合にはサプリメントで補充しましょう。
- 便秘を避ける:便通をよくすると便秘が改善することはよく知られています。この逆で、便秘すると腹が張り食欲が低下することを経験された方が多いのではないでしょうか。便通をよくするためには睡眠、食事が大切です。もちろん、適度な運動もお忘れ無く。歩くことを少しでも増やしましょう。
精神的負担の軽減
ストレスをためないように気分転換やストレス発散を図るよう工夫しましょう。カウンセリングを受けることも有用です。
まとめ
日常生活の中でまずご自分でできることをしつつ、主治医の先生とよくご相談なさって治療法の選択をしましょう。なんといっても症状の軽減が第一ですが、症状が治まっても悪化しないように、生活習慣の改善をお忘れなく。
漢方治療をこのような方におすすめします
- 西洋医学的治療で改善しても中止すると元に戻ってしまう、悪化してしまう。
- 胃腸障害(腹痛、下痢)などの副作用のため服薬を続けられない。
- 西洋医学的治療で十分な効果が得られない、かえって悪化してしまう。
- 長期に西洋薬を服用することに不安がある。副作用が心配だ。
食欲不振の漢方治療
漢方治療に何が期待できるか
食欲不振を西洋医学で改善することは可能です。しかし、服薬を中止すると元に戻ってしまうことが多いのも事実です。漢方では低下した機能を正常に近づけるように導きます。低下している消化管機能を改善し、背景にある自律神経系の不調も正常化するように処方を設計します。精神的負荷が自律神経系の不調を招き、結果として消化機能が低下しているという例を多く見ます。これらを同時に並行して調整することが治療の勘所(キモ)なのです。
症状別漢方治療の実際
食欲不振の程度により変わります。
軽症型(量が入らない。)
胃の拡張する能力を改善する処方として、平胃散、茯苓飲などが使用されます。
中等症(無理して食べるが、すぐおなかがいっぱいになる)
この状態では疲れ易い、だるいなどの症状(気虚)を伴うことが多く、気を補う処方を使用します。代表的処方に六君子湯があります。また、精神的負担からお腹がいっぱいになるという場合には、神経性胃炎として安中散がよく使用されます。
重症型(食事をみるのもいや。箸をとる気になれない)
ここまでくると疲れがとれない、朝起きられない、動くのもおっくうになる、立ちくらみ、ふらつきといった症状を合併することが特徴的です。気虚の程度が中等症より進んでおり、より強力に補う必要があります。冷えも加わりますので、新陳代謝をたかめる人参湯や真武湯が使用されます。
症状が改善しつつある時期の漢方治療
患者さんの症状が改善し、合併する異常も改善してくると処方もステップアップする必要があります。その時々に合った漢方処方を吟味しますので、決まったものはありませんが、症状が軽くなると治療を続ける動機が薄れてきて、つい間が開いてしまう。そして、再び悪化して受診されるという方もおられます。症状が無くとも、漢方医学的には改善すべき点が複数あるものです。たとえば、「疲れやすい」や「疲れがとれない」といった症状があるなら、これを目標に漢方治療をいたします。できることなら、多少間が開いても治療を続けて受けていただきたいものです。
まとめ
漢方医は処方を決めるため、患者さんの全身状態を四診(視る、聞く、嗅ぐ、質問する、触れる)により把握し、局所(口腔内・舌と腹部ときに背部)を注意深く観察します。皮膚の状態も観察します。最後に精神状態の診断を加え、総合的に判断して処方決定します。食欲不振だからこの処方などと決められないのです。漢方専門医に相談するメリットはこの点にあります。漢方医学には長年の経験に裏付けられた体系的な理論があり、これを駆使することで漢方処方が活きるのです。食欲不振の漢方治療については漢方診療に経験豊かな漢方専門医にご相談ください。
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