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機能性胃腸症と漢方(慢性胃炎・神経性胃炎・胃下垂…胃の不快な症状に)

機能性胃腸症(Functional dyspepsia)とは

胃もたれ・胃痛などの不快な症状がありながら、内視鏡などの検査を受けても原因となる胃潰瘍などの病気がみつからない場合が、機能性胃腸症(Functional dyspepsia)です。別名で非潰瘍性胃腸症(Non-Ulcer Dyspepsia:NUD)とも呼び、これまで神経性胃炎胃下垂などの診断名で呼ばれていたものが含まれています。

ちなみに『ディスペプシア(Dyspepsia)』は『上腹部愁訴』と訳され、胃もたれ(食べ物がいつまでも胃に停滞しているような不快感)、早期飽満感(食事を始めてすぐに胃がいっぱいになって食べられなくなる感覚)、心窩部痛(みぞおちの痛み)、心窩部灼熱感(みそおちの熱い感覚)といった症状のことを言います。したがって「Functional dyspepsia」は、「機能性ディスペプシア(機能性上腹部愁訴)(機能性胃腸症)」と併記されることもあります。「Functional dyspepsia」は“上腹部”の症状で、この胃腸とは胃から十二指腸(上部消化管)を指しています。

※なおこの機能性胃腸症(Functional dyspepsia)は、2006年5月の米国消化器病週間において発表された機能性消化管障害(Functional gastrointestinal disorder)のRome III分類に、下部消化管の機能異常として知られる過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome)とともに新たにまとめられています。

機能性胃腸症の原因

機能性胃腸症の原因

胃の働きは、拡張して飲み込んだ食物をいったん貯えながら、胃酸を分泌して消化し、少しずつ十二指腸から小腸に送り出す仕組みになっています。これには、人が意識しても調節することのできない自律神経や、消化管ホルモンと呼ばれる物質の分泌による胃蠕動の調整を受けたり、食べ物の成分(糖質や脂質)によっても胃の蠕動にブレーキがかかるなど、大変複雑なメカニズムが絡み合って影響しています。

機能性胃腸症の原因

機能性胃腸症では、ストレスなどによる緊張状態が自律神経(副交感神経=迷走神経)の働きを抑えて胃の蠕動運動が低下したり、胃壁を保護する粘液の分泌低下や胃の知覚過敏、胃の拡張能の低下などが、胃もたれや不快感、早期飽満感を引き起こすものと考えられています。

現代医学的診断と治療

Rome III分類では、6か月以上前から症状があり、最近3カ月間に症状(胃もたれ・早期飽満感・心窩部痛・心窩部灼熱感)のいずれかがあり、検査で原因となる疾患を確認できない場合に診断されます。つまり一定期間続く症状があるということと、胃カメラなどの検査が必要となります。

上腹部の症状(胃の痛み・もたれ・胃部の不快感)は、胃・十二指腸潰瘍や胃癌などの他に、胆嚢や膵臓の病気が原因となることがあり、胃カメラや超音波検査などをまず受ける必要があります。また近年では慢性胃炎・胃潰瘍の原因であるピロリ菌を除菌すると症状が改善することもあり、ピロリ菌感染の確認も有用です。ピロリ菌感染については、内視鏡検査に際して胃粘膜を直接採取して確認したり、糞便検査でチェックすることができます。(*ピロリ菌除菌の保険適応は胃十二指腸潰瘍のみで、慢性胃炎での抗生物質投与は現在のところ認められていません。)

機能性胃腸症の治療は、まずは生活習慣の見直しと改善が第一です。胃の機能を整えるためには、過労・ストレスを避け十分な睡眠が必要です。緊張状態は胃の運動を低下させ、胃酸分泌を亢進させることになります。また朝食は抜かないようにしましょう。朝、胃が重くて食事を受け付けないという場合には、就寝前3時間は食事を摂らないでください。仕事で遅くなるという場合には、おにぎりなどで軽く済ませ、深夜の空腹時には豆乳やホットミルクなどに少量の砂糖を加えるのもよいでしょう。食事内容としては甘いもの・油もの・刺激物を控え、一口30回よく噛んで食べるようにすることがよいでしょう。嗜好品では、タバコ・アルコール・コーヒー・チョコレートなどが胃蠕動を低下させるものとして注意が必要です。

こんな時には漢方治療を

生活習慣を改善しても症状の改善が得られない場合、現代医学的には薬物治療として胃酸分泌を抑える制酸剤・胃粘膜保護剤・消化管機能改善薬がいくつか併用されます。またストレスの関与や精神的要因として不安・緊張状態の強い場合には、抗不安薬も使用されることがあります。このような現代医学的治療は、症状を一時抑えることが出来ることもありますが、あまり改善の得られないこともあります。とくにストレスが関与することが多いために、結局は症状や薬と長く付き合うことになってしまうこともあります。胃腸の“機能”を整えるのはどちらかと言うと後述するように、心身の状態を総合的に捉える漢方治療の方がお勧めです。

東洋医学の考え方

東洋医学(漢方)には、五蔵論という生体のシステム論があります。五臓という考えを理解するには、五行説という経験と観察による東洋思想(哲学)を知っている必要があります。以下に簡単にこの五行説についてまとめてみます。

五行説では、「この世界は“木・火・土・金・水”の5つの要素から成り立っていて、これらのシステム同士の相互作用によって機能している」と捉えます。システムの相互作用とはまず、“木”が燃えて“火”、“火”は燃え尽きて灰すなわち“土”、“土”は固まって“金”(岩)となり、“金”は“水”を集め、“水”はまた“木”に入る・・・というような互いに生み出し合う関係を見ます。(これを「相生関係」と言います)。また“木”は“土”を痩せさせ、“火”は“金”を溶かし、“土”は“水”を吸い、“金”は“木”を枯らし、“水”は“火”を消すというように、互いに抑制し合う関係があります(これを「相克関係」と言います)。このように東洋思想では、システムの有機的なつながりを重視し、物事を全体的に捉えるという特徴があります。

この五行説に基づく五臓論では、人体について肝(木)・心(火)・脾(土)・肺(金)・腎(水)という5つの内臓の機能単位で捉えます。そして、それぞれの機能は、怒(肝)・喜(心)・思(脾)・悲(肺)・恐(腎)という精神活動と関連しているとしています。たとえば“怒り”は“血の巡りを悪く”し、“眼精疲労”や“筋肉の凝りやひきつれ”の原因となります。東洋医学で言う“肝”とは、精神活動とともに“血液”や “目”・“筋肉”なども含めて考えています。つまり現代医学でいう“肝臓”という臓器だけを指すものではありません。心・脾・肺・腎も同様で、“消化吸収システム”を担っているのは“脾”です。

機能性胃腸症に対する東洋医学の考え方

機能性胃腸症を漢方で考えるには、このようなシステム論がとても役に立ちます。胃腸の機能に深く関わるのは、“肝”と“脾”です。消化器の中心は東洋医学的には“脾”であり、まずは脾を整えることを考えますが、胃腸の機能を悪化させる要因として“ストレス”の関与は大きいもので、ここに“肝”すなわち“怒”が関わってきます。 ストレスから出る“怒”は“肝”の失調を来し、相克の関係から“肝”の昂ぶりは“脾”の衰えを招くことになります。つまり“肝”を抑える治療(これを抑肝と言います)や“脾”をたすける治療(これを“扶脾”と言います)が有効で、これらの治療を併せて「抑肝扶脾」と言います。

漢方ではこのように心身の状態を総合的に捉えますので、胃や腸だけを治療対象とするではなく、ストレスに起因する身体の反応にも目を配り対応することになります。これが、漢方が心身一如の医学と言われるゆえんです。この点で、分析的・科学的で器官ごとに的を絞ってアプローチする医療体系である現代医学とは、異なった治療体系となっています。さらに漢方治療では“脾”=消化機能を整えることで、生体エネルギーである“気”(特に飲食物からの“水穀の気”と言います)が補い養われ、意欲の改善や疲労回復へとつながります。漢方薬は長く継続するイメージがありますが、症状の改善とともに支えながら身体作りを目指すということがその背景にあるのです。

機能性胃腸症の漢方治療

漢方薬を構成する生薬の中で、“脾(胃腸)”を補い整えるものの代表は“人参”です。その他、“茯苓”、“白朮”や“甘草”という生薬などにも補脾作用があります。そしてこれらがチームを組んだ漢方薬として、人参湯や四君子湯が有名です。 これらは胃が弱く、冷え性ですぐに胃もたれするような方に処方されます。また六君子湯は、四君子湯と胃のむかつきに用いられる二陳湯が組み合わされた処方ですが、最近の研究で胃の排泄能を改善したり、グレリンという食欲に関連するホルモンの感受性を高めることで食欲改善効果があることがわかってきました。

胃のむかむかや胃痛には、他に半夏瀉心湯安中散もよく用いられますが、これらが合うか合わないかの見極めは、実際にはなかなか難しいこともあります。漢方医は、症状、顔色や舌苔の状態、腹部の触診などによって、これを判断しています。

また前段に述べたように、“肝”の失調も、胃腸の機能に深くかかわっています。“抑肝作用(抗ストレス作用)”のある生薬としては、“柴胡”が主なもので、これを含む処方を柴胡剤と呼んでいます。たとえば“柴胡”・“芍薬”・“枳実”・“甘草”の四つの生薬で構成される四逆散は、「胃炎」や「胃酸過多」に保険適応があります。この処方には“人参”が含まれていませんが、抗ストレス作用により胃腸機能の改善が得られるものの代表と言えます。また抑肝扶脾の効果を持つ、柴胡と人参が含まれる処方も数多くあり、その代表としては補中益気湯があります。この漢方薬は、特に疲労感の強い場合によく処方されます。

日本人は社会の中で気をまわし、気を配り、とても“気”をよく遣う文化に生きています。それゆえでしょう、毎日のテレビCMでは胃腸薬がたくさん流れ、胃腸のトラブルに悩む人々の多さがうかがわれます。東洋の知恵 五臓論では、“思い煩う”人ほど“脾”を病みやすく、“耐え忍ぶストレスに怒りを溜める”人もまた胃腸を病むのだと教えます。食生活を含めたライフスタイルの改善とともに、心のあり方としてあまりくよくよせず、適度な運動などによるストレス発散といった養生がまずは大切です。

そして心身一如の考えで体の働きを整えてくれる東洋医学が、また助けとなることでしょう。“脾”は身体のエネルギーを生み出す“エンジン”です。漢方で“脾”を整えることで、不快な症状を改善するばかりではなく、健康を維持・増進し、万病を排する力の源になるものと考えます。機能性胃腸症の治療は養生とともに、まずは漢方治療がよろしいでしょう。※神経性胃炎のページもあわせてご覧下さい。